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開業の手続きと順番

個人で開業して1〜2年目、法人化を考え始める目安ときっかけ

この記事の結論

  • 法人化は売上ではなく「所得(利益)」で考える。所得税は課税所得が695万円を超えると23%、900万円を超えると33%に上がる。中小法人の法人税は年800万円以下の部分が15%(国税庁)
  • 税率だけで決めない。会社にすると、社長1人でも健康保険・厚生年金の適用事業所になり、赤字でも法人住民税の均等割がかかる。設立の登録免許税や決算の手間も増える
  • きっかけになりやすいのは、取引先から会社での契約を求められたとき、人を雇うとき、消費税の課税事業者になる時期が近いとき。迷ったら、自分の数字で税理士にシミュレーションを頼む

「売上がいくらになったら法人化したほうがいいですか」という質問には、一つの数字では答えられません。見るべきなのは**売上ではなく所得(売上から経費を引いた利益)**で、そのうえで税金以外のコストも並べて比べる必要があります。

この記事では、国税庁・日本年金機構・総務省の資料(2026年10月時点)をもとに、個人で開業して1〜2年目の人が法人化を考え始める目安と、きっかけになりやすい場面を整理します。

開業する人の半分以上は、まず個人で始めている

日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」で、開業時の経営形態は個人企業が57.0%、法人企業が43.0%でした。

この調査の対象は、日本政策金融公庫が2024年4月〜9月に融資した企業のうち、融資の時点で開業後1年以内だった企業です(回答2,165社)。開業した人全体の数字ではありませんが、半分以上が個人事業として始めていることがわかります。事業が軌道に乗ってきた1〜2年目に、法人化を考え始める人が多くなります。

現場でよく聞く法人化の理由と、よくある失敗

支援の現場で、法人化を考え始めた理由としてよく聞くのは次の4つです。

  1. 税金面:所得が増えて、個人の所得税と会社の法人税の税率の差が気になってきた
  2. 信用面:会社のほうが、取引や融資の場面で信用されやすいと感じた
  3. 取引先から会社での契約を求められた:新しい取引先から「取引するなら法人で」と言われた
  4. 人を雇う:人を採用するとき、法人のほうが応募する人に安心される

1の税金面は、このあと説明するとおり、税率だけで決めると見落としが出やすいところです。2〜4は、後半の「法人化のきっかけになりやすい場面」で詳しく取り上げます。

法人化でよく見る失敗は、次の3つです。

  1. 売上だけで判断する:税金がかかるのは所得です。売上が同じでも、経費の多い業種と少ない業種では結論が変わります。
  2. 税率だけを比べる:会社にすると社会保険料や法人住民税の均等割など、個人のときにはなかった支払いが出てきます。
  3. 決算や手続きの手間を見落とす:会社は事業年度ごとに決算をし、法人の申告をします。個人の確定申告より手間がかかります。

まず「所得」で見る

個人事業の所得税は、売上(収入)から必要経費を引いた所得に、さらに所得控除を引いた「課税される所得金額」にかかります。法人化を考えるときも、まずは自分の所得がどれくらいかを確定申告書で確かめるところから始めます。

個人の所得税の税率

国税庁の速算表(令和8年4月1日現在法令等)です。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円〜194万9,000円 5% 0円
195万円〜329万9,000円 10% 9万7,500円
330万円〜694万9,000円 20% 42万7,500円
695万円〜899万9,000円 23% 63万6,000円
900万円〜1,799万9,000円 33% 153万6,000円
1,800万円〜3,999万9,000円 40% 279万6,000円
4,000万円以上 45% 479万6,000円

これとは別に、原則として基準所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります。所得税は、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。

会社(中小法人)の法人税の税率

国税庁によると、資本金1億円以下の法人などの法人税の税率は次のとおりです(令和8年4月1日現在法令等)。

所得の区分 税率
年800万円以下の部分 15%(所得が年10億円を超える事業年度は17%)
年800万円超の部分 23.2%

個人の所得税は課税所得が900万円を超えると33%になりますが、中小法人の法人税は年800万円以下の部分が15%です。このため、所得が大きくなるほど、法人にしたほうが税金の面では有利になりやすいと言われます。ただし、法人には法人税のほかに地方法人税・法人住民税・法人事業税もかかり、社長の役員報酬には個人の所得税がかかります。税率表だけを並べても、本当の差はわかりません。

税率以外に増えるコスト

社会保険

日本年金機構によると、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合も含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。

つまり、社長1人の会社でも、健康保険と厚生年金の手続きが必要になります。役員報酬の決め方などで扱いが変わることもあるので、設立前に年金事務所や社会保険労務士に確かめておくと安心です。保険料は会社と本人で負担するので、手取りや会社のお金への影響は小さくありません。将来の年金が厚くなる面もあるので、損得は人によって違います。

個人事業所の場合は、従業員が常時5人以上いると、農林漁業・サービス業などを除いて厚生年金保険の適用事業所になります。

法人住民税の均等割

総務省によると、法人住民税には、資本金等の額と従業者数に応じて定額でかかる「均等割」があります。均等割は利益が出ていなくてもかかります。総務省の表では、資本金等の額が1,000万円以下で従業者数50人以下の会社なら、都道府県民税が2万円、市町村民税が5万円です。実際の税額は、事務所のある自治体で確かめてください。

設立の費用

会社を作るときは登録免許税がかかります。中小企業庁によると、通常は株式会社が資本金の額の0.7%(最低15万円)、合同会社が0.7%(最低6万円)です。市区町村の特定創業支援等事業を受けて証明書をもらうと、それぞれ0.35%(最低7.5万円、最低3万円)に軽くなります。くわしくは開業するときに使える補助金・支援制度の全体像にまとめています。

株式会社と合同会社の費用の違いや、設立後の届出は、法人化の手順と費用にまとめています。

決算と申告の手間

会社は事業年度ごとに決算をし、法人税などの申告をします。個人の確定申告より書類が多く、税理士に頼む人も多くなります。その費用も比べる表に入れておきます。

法人化で使える仕組み

役員報酬には給与所得控除がある

会社から受け取る役員報酬は、個人の給与所得になります。国税庁によると、給与所得には収入に応じた給与所得控除があり、令和8年分は収入220万円までが74万円、850万円超は上限の195万円です。個人事業の所得を会社と役員報酬に分けることで、全体の税金が下がる場合があります。

消費税の納税義務の考え方が変わる

個人事業主は、基準期間(その年の前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として消費税の納税義務が免除されます。1,000万円を超えると課税事業者になります。国税庁は、新たに設立された法人は設立1期目と2期目に基準期間がないため、原則として納税義務が免除されるとしています。

ただし、事業年度の開始の日の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上の法人や、特定新規設立法人に当たる法人は免除されません。特定期間の課税売上高などで課税事業者になる場合もあります。インボイス(適格請求書発行事業者)の登録を受けている場合も、納税義務は免除されません。消費税のためだけに法人化を決めるのは危ないので、必ず税理士と一緒に確かめてください。

法人化のきっかけになりやすい場面

税金の比較とは別に、事業の状況から法人化を考える人も多くいます。

  • 取引先から会社での契約を求められた:会社相手の仕事では、取引の条件として法人であることを求められる場合があります
  • 人を雇う:雇う人の社会保険や、採用のときに応募する人が安心できるかを考えて法人にする人もいます
  • 消費税の課税事業者になる時期が近い:2年前の課税売上高が1,000万円を超えそうなときは、上の消費税の考え方とあわせて検討します
  • 融資や取引の信用を高めたい:決算書で事業と個人のお金を分けて示せるようになります
  • 事業と家計をはっきり分けたい:会社のお金と個人のお金が分かれるので、管理しやすくなります

法人化を考え始めたら、やること

  1. 直近の確定申告書で、所得(利益)を確かめる
  2. 来年の所得の見込みを、売上と経費に分けて書き出す
  3. 役員報酬をいくらにするかの案を作る
  4. 社会保険料、法人住民税の均等割、設立費用、税理士費用を並べる
  5. 自分の数字で、税理士に個人のままと法人化した場合のシミュレーションを頼む

会社の形(株式会社か合同会社か)や設立の手順は、法人化の手順と費用にまとめています。個人事業をやめるときは、国税庁の「個人事業の開業・廃業等届出書」で廃業の届出をします。

相談できる税理士がまだいない人は、弥生の税理士紹介サービスで相談先を探す方法もあります。会社を作ると決めたら、設立の書類づくりは弥生のかんたん会社設立のようなサービスで進められます。

法人化するかどうかを、まず税理士に相談してみたい人向けには、税理士法人経営サポートプラスアルファの法人化の相談のように、法人化の相談を受け付けている税理士法人もあります。

チェックリスト

  • 売上ではなく、所得(利益)で考えた
  • 自分の課税所得が、所得税の税率表のどこに当たるか確かめた
  • 会社は社長1人でも社会保険の適用事業所になることを理解した
  • 法人住民税の均等割は赤字でもかかることを確かめた
  • 登録免許税など設立の費用を調べた(特定創業支援等事業の証明書があるかも確かめた)
  • 消費税の課税事業者になる時期を確かめた
  • 税理士にシミュレーションを頼む準備をした

まとめ

法人化を考え始める目安は、売上ではなく所得です。所得税は課税所得が900万円を超えると33%になり、中小法人の法人税は年800万円以下の部分が15%なので、所得が大きくなるほど法人化を比べる価値が出てきます。ただし、社会保険料・均等割・設立費用・決算の手間も増えます。取引先や雇用などのきっかけもあわせて、自分の数字で税理士に比べてもらってから決めてください。

出典